“治験”の文書管理を効率化したい!実現するカギはクラウド化【アガサインタビュー前編】
近年、Fintech(金融×テクノロジー)やRetech(不動産×テクノロジー)が注目され、さまざまな業界でテクノロジーを活用したイノベーションが起こっています。
医療業界でもIT化が進んできていますが、まだ紙でのやりとりが一般的な領域があります。それが「治験」と呼ばれる薬の実験に関する業務です。年間で何億枚という紙が使われています。
この治験の文書をクラウド管理することで効率化を支援するサービスを提供しているベンチャー企業がアガサ株式会社です。今回は、同社の代表取締役社長である鎌倉 千恵美様へのインタビューです。
前編では、起業に至るまでの経緯、同サービスを始めたきっかけなどをお伺いします。
目次
治験の文書管理をクラウドで効率化したい
電子化したいニーズとシステムがミスマッチしていた
ーアガサを立ち上げるまでの鎌倉様の経歴を教えてください。
「大学では情報工学を学んでいて、卒業してからは総務省に入り国家公務員として働いていました。しかし公務員だと決められた仕事をするだけで、それよりもっといいサービスを作ってそれをお客様に直接提供する仕事がしたいと思って、4年後に日立製作所に転職しました。
日立製作所では10年ほど医療や製薬会社向けの新規事業のプロダクトマネージャーなどを経験し、その間に一度アメリカに留学してMBAを取得しました。そして2011年に日立製作所をやめてアメリカのベンチャー会社であるネクストドックスに転職。ネクストドックスも製薬会社向けの文書管理システムを提供している会社で、その日本支社の立ち上げを経て3年前にアガサを立ち上げたという経緯です。」
ー起業に至ったのは何かきっかけがあったのでしょうか。
「日立製作所にいた10年ほど前に仕事で日立総合病院に行ったのですが、そこで製薬会社から送られてきた紙がぎっしり詰まった段ボールが何十個も積まれている光景を目の当たりにしました。これらは“治験”と呼ばれる薬の効き目を臨床的に確かめる検定に使われている資料で、それを手作業で仕分けするなどしていて。いまどきこんなに紙を使っている業務があることに対して、なんて遅れているんだろうと思ったんです。
日立製作所ではこうした治験で発生する紙を管理するシステムを提供していたのですが、導入するのに数億円もかかりました。それを買えるのは大きな製薬会社くらいです。しかし治験のシステムが必要なのは、大きい製薬会社だけではなく、実際に治験をしている現場の病院や薬を開発している小さな製薬会社、医療機器メーカーなどです。
紙をなくして電子化したい人たちはたくさんいるけど、それに億単位の費用を払える人たちはなかなかいない。この状況を何とか解決できないかという思いが、次第に強くなっていきました。」
文書管理をクラウド化することで低価格を実現
ーたしかに億単位でシステムを導入するとなるとかなりハードルが高いですよね。
「そこで出会ったのが、日立製作所から転職したアメリカのネクストドックスという会社でした。日立製作所はそこで販売していたシステムを数千万円で購入して代理店として販売していたので、最終的に数億円という単価になるんです。だったらネクストドックスが直接お客様に販売すれば数分の一の金額で提供できるのではと思い、ネクストドックスの日本支社を立ち上げました。
ただ、それでも何千万円かかるので、なかなか病院などにはまだ手が届かない金額帯です。どうすればもっと安くシステムを提供できるかを考える中で、ちょうど世の中にクラウドサービスが浸透してきたこともあり、自分たちで既存のシステムをクラウドサービスに作り替えてみようと思いました。
システムを1から作ろうとすると何千万とかかりますが、クラウド化すれば数十万円で提供できるのではないかと。そして、そのビジネスの計画を作ることにしました。
しかしそんなタイミングで突然ネクストドックスの日本支社が閉鎖することになってしまい、これは見えない力で神様が自分でやれと言っているのかなと思って、会社を立ち上げることにしたんです。」
何でも言い合える環境がグローバルな組織のメリット
ー起業にあたって苦労したことはありますか?
「チーム作りは一番苦労しました。やはりサービスの提供は1人でできることではないので、一緒に開発するメンバーを集めようと思いましたが、どういう方にお願いしたらいいのかが分かりませんでした。そこで、ちょうどネクストドックスが閉鎖になったこともあり、一緒に働いていた同僚の中でシステム開発に詳しいメンバーに声をかけて、フランス人、チュニジア人、スウェーデン人と私の4人で立ち上げました。」
ー国籍が違う人が多いと、コミュニケーションも大変だったのではないですか?
「それが意外と大変なことは少なくて、全員国籍が違うので英語でコミュニケーションをとるのですが、英語を母国語としているメンバーではありません。日本人同士だと言いにくいことが、英語だとストレートにしか言えないこともあり、ダイレクトなコミュニケーションがとりやすいんです。しかもリモートで働いているので、言わないでも雰囲気で通じるわけがなく、お互いに直接何でも言い合えるオープンな関係はむしろ作りやすかったところです。
それに今は社員9名のうち女性が5名で、ほとんどはまだ子供が小さい子育てママです。全員が在宅勤務ですが、パートタイムのような感じではなく会社の中心になって営業やサポートを引っ張って活躍しています。そうした在宅勤務も同じで、常に一緒にいるわけではないので、言わないと相手に動いてもらえません。そういう何でも言える環境が作れるのは、在宅勤務やグローバルなメンバーで組織を作るメリットだと感じています。」
前編はここまで。
「神様が自分でやれと言っている」と思ったという起業のきっかけが非常に印象的でした。
そして高額な費用が掛かるシステムをクラウド化すればいいという発想から、新しいサービスを立ち上げることになった同社。実は治験の分野にITベンチャー企業が参入するにはさまざまな障壁があるといいます。
後編では、どのベンチャー企業も取り組まなかった治験のIT化を実現した背景や、今後の医療業界に対する展望を教えていただきます。